タンパク質の高次構造を明らかにし、機能を理解する方法はX線結晶構造解析である。このためには結晶化は必須の作業である。しかし、この行程には定法がなく、熟練した研究者の経験と勘に頼っている。解析作業はSPring-8の稼働により飛躍的に進歩しているので、優れた結晶作成方法の出現が待ち望まれている。我々は弱いUV光をリゾチームの過飽和溶液に短時間照射すると結晶核の形成が促進されることを見いだした。この機構を理解し、タンパク質の結晶化手法として一般化することを目的とする。これまでに得られた成果を下記に示す。 1.再現性の確立。光照射による結晶化の結果を安定して得るために、結晶出現の頻度に不確定さを与える因子を解明し、再現性の高い実験方法を確立した。光照射を行わない条件では結晶が出現しない溶液から、光照射により確実に結晶を出現させることが可能となった。 2.分子間相互作用の測定。動的光散乱測定を行い、光照射によりリゾチーム分子間の相互作用が引力になることを見いだした。反応中間体の分子間相互作用を光で変化させることにより結晶化を引き起こすことが可能となることが判明した。 3.過渡吸収測定を行い、トリプトファン残基が中性ラジカルとなった反応中間体が結晶核形成に関与していると推測した。 4.Thaumatinでも光誘起結晶化が確認された。Thaumatinでは溶解度以下の濃度の溶液でも核形成が確認された。 5.光誘起結晶化により適した結晶化処方の開発を検討した。その結果、ポリエチレングリコールなどの非電荷ポリマーを添加すると、結晶化の駆動力が同じ条件であっても、ポリマー添加を行った場合ではより結晶化が促進されることを見いだした。
|