本研究は、触媒活性種となり得る、絶縁性酸化物基板上に分散して固定化された単核〜4核程度の金属核をもつ錯体または少数金属原子からなるクラスターを対象とし、その電子状態を精密測定するための新規スペクトロスコピーの開発を目的とする。具体的には、共鳴トンネリングにより固定化錯体に単一の電子を与えたり逆に引き抜くことにより探針との間に生じる静電気力を非接触原子間力顕微鏡(NC-AFM)で検知し、電子状態を測定する。 今年度は、粉体触媒で均一な反応活性点の構築法として知られる固定化法を単結晶表面にも適用するため、酸素終端γ-Al_2O_3/NiAl(110)表面の作製およびその水酸基終端化と、金属錯体の表面への固定化の実験を進めた。超高真空中で作製し清浄で構造の整ったAl_2O_3/NiAl(110)表面上に、パルスバルブを用いてRh錯体の水溶液を真空噴霧してRh錯体を分散して吸着させた。STM観察により、表面水酸基をもたないAl_2O_3表面では、ドメイン境界やステップ端など配位不飽和Alカチオンが露出するようなサイトに錯体が優先的に吸着することが分かった。原子状水素の露出による表面の水酸基化が錯体の固定化に有効に寄与するかどうか検討を進めている。 また、NC-AFMに任意波形信号発生器とデジタルストレージオシロスコープによる信号記録を組み合わせた、本研究で提案するスペクトル測定システムの基本骨格の立ち上げを行った。feedback回路をホールドした状態でバイアス電圧、探針-試料間距離の変調が正常に行えること、導体系を用いた誘導電荷による擬似的な周波数シフトの信号の検出により行った感度の評価から、孤立した触媒活性種に単一の電子を与えたり逆に引き抜くことに伴って予想される信号変化の大きさが十分観測可能であることを確認した。
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