本研究は、近接場光学顕微鏡(SNOM)による光の回折限界を超える空間分解能での光学計測によって固体基板上に高密度にグラフトされた高分子鎖(高分子ブラシ)を単一分子レベルで直接イメージングおよび時間分解測定することにより、その構造とダイナミクスを明らかにすることを目的としている。 本年度は、単一分子鎖観察を可能とする顕微鏡システムの構築を行うとともに、蛍光ラベルされたグラフト高分子鎖の合成手法の開発を行った。チタン-サファイアレーザーからの直線偏光パルスを光源として使用し、自作の共焦点顕微鏡光学系に導入した。試料からのシグナル光は偏光ビームスプリッタにより励起偏光に対して平行および直交成分に分割し、それぞれを2台の検出器を用いて同時に時間分解測定した。検出器としてGaAsP光電面を有する光電子増倍管を用いることで高感度かつ高時間分解能(約200ps)を達成した。これにより、顕微鏡下での時間分解蛍光偏光解消測定を行うことが可能となり、ナノ秒スケールの回転緩和運動を評価することが可能となった。グラフト高分子鎖の合成に関しては、原子移動リビングラジカル重合法を固体基板上に固定した開始剤を用いて行うことにより、高密度に高分子鎖をグラフト重合することに成功し、そのグラフト密度は最大で0.5本/nm^2と従来の手法に対して一桁以上の高密度を達成し、その蛍光ラベル化にも成功した。試料としてペリレンでラベルされたポリメチルメタクリレートをグラフト重合し、アンサンブルで蛍光偏光解消測定を行った。その結果、高分子ブラシのセグメント運動の緩和時間は30nsであることが分かった。この結果は、溶液中における運動(緩和時間1.2ns)に対して、相当に運動性が抑制されており、グラフト鎖の末端基固定の効果が分子運動性に大きな影響を及ぼすことを示している。
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