本研究では、電気化学系において双安定状態を誘起し、その環境下での顕微分光により、この協同化学反応の分子レベルでの機構解明を試みている。平成17年度においては、この目的達成のためのモデル系の探索・構築、および数理的手法を用いた系の設計を行った。 (1)モデル系の探索・構築 本年度はまず、将来の顕微分光を念頭に、容易に双安定状態を実現でき、かつその連続的・可逆的なチューニングの可能な系の探索を行った。これまでの研究を通して、反応阻害種を含む電極反応においてその実現が大きく期待されていた。我々は、反応阻害種としてカチオン性界面活性剤を用いて実際に双安定状態を実現できることを見出した。さらに、そのカチオン性界面活性剤の疎水鎖部の鎖長や濃度を変えた実験を通して、この双安定状態の発現電位や二相間の遷移速度などを制御できることを見出した。 (2)双安定状態の数理モデル化、発現機構の解明 上記のように実験的に双安定状態を実現することは出来るようになったが、これを他の任意の反応系でも実現するために、現象の数理モデル化を試みた。当初は電気化学反応系をラプラス場と捉えて、ラプラス方程式を取り扱う算段であった。しかし、実験を進めるうちに、電気化学反応系における非線形パターンも一般の化学反応系同様、反応拡散系として取り扱うことができることが明らかとなった。こうして期待していた以上の現象の一般モデルを構築することができた。こうして得られた分岐図は系の設計図に相当し、これを元に様々な非線形反応パターンを任意のタイミングで誘起できるようになった。
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