研究概要 |
1.Ru(II)錯体結晶の光反応として[Ru(tpy)(bpy)(dmso)](SO_3CF_3)_2のホトクロミックな配位結合異性化反応を取り上げた。結晶で反応中間状態が発光する珍しい系である。結晶のKCl希釈透明錠剤での単一光パルス照射によるピコ秒過渡吸収測定に成功し、溶液系でのサブピコ秒の測定の結果と比較して、結晶中では、反応時定数がおよそ2-3桁遅くなり、発光のダイナミックスとほぼ矛盾しないことが明らかにできた。2.Pt(II)錯体([Pt(bathphen)(CN)_2],[Pt(dipicolylbenzene)Cl])が溶液中でエキシマーを生成することをヒントに、結晶においてもエキシマー様発光を示し、その生成ダイナミックスが観測できることを見いだした。また結晶多形を観測する中で結晶成長の興味ある時間変化と発光色変化を見出した。さらに結晶の破砕によってもエキシマー様発光が発現することを見いだした。結晶構造も明らかにできたが、芳香環の重なりは強くなく、金属芳香環の相互作用がエキシマー様発光をもたらすのではないかと推定している。3.Ru錯体の対イオンが消光剤となるイオン対結晶での消光の中間体検出を目指し研究をおこなった。[Ru(phen)_3]^<2+>とアントラキノンスルホン酸イオン(AQS^-)は溶液中では全く反応しないが、複イオン対結晶であれば消光するようになる。結晶構造解析の結果、Ru錯体周りのAQSの近接した非対称な配置が確認でき、それが効率の良い消光の原因であると考えられる。ほぼ同形の結晶を生じると予測されるZn(phen)_3錯体で希釈したRu/Znイオン対錯体結晶ではさらに強い消光が認められた。また、結晶は比較的低温で融解し、融解冷却後のガラス状固体では全く消光しなくなる。したがって結晶特有の配置が消光に寄与していることがわかった。
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