1 はじめに 界面選択性をもつラマン分光法(四次ラマン分光法)を用いて、固液界面に局在する低波数大振幅振動を計測することが本研究の目的である。四次ラマン分光法は(1)ポンプ光二光子を使ってラマン励起した振動コヒーレンスを(2)プローブ光の第二高調波に現れる量子ビートとして検出する分光法である。ポンプ-プローブ過程全体の光学次数が4となるため、反転対称が破れた界面近傍の情報だけを観測する。この新手法を武器として未踏領域に切り込み、当特定領域研究に結集する固液界面研究者と連帯して固液界面ダイナミクスを解明する。 2 今年度の研究成果 時間幅17fsの波長可変光パルスを用いて二酸化チタン-大気界面と色素水溶液-ヘキサデカン界面のTHz振動を計測した。前者は、電子状態遷移に一光子共鳴させなくとも四次ラマン信号を得られることを示しており、測定対象物質の範囲を大きく広げる成果である。後者は、世界ではじめて、液体中に埋没した界面を計測したものである。 3 今後の展望 (1)液体と接触した固体の界面フォノン検出:トリメチル酢酸イオンで被覆保護したTiO_2(110)単結晶面をさまざまな溶媒や溶液に浸漬して界面フォノンを計測する。界面近傍の格子振動と、吸着分子-表面間の低波数振動を検出することをめざす。 (2)化学修飾した二酸化チタン表面の振動計測:二酸化チタン単結晶表面を、シランカップリング剤や金属アルコキシドで化学修飾する。固液界面の分子構造が低波数振動におよぼす影響をしらべる。 (3)周波数領域計測法との比較:本研究で使用する四次ラマン分光法を量子ビートを時間軸上で計測する時間領域分光法である。最近、田原太平ら(理研)が四次ラマンスペクトルを周波数軸上で計測する新技術を発明した。時間領域法と周波数領域法の得失を、必要ならば田原らと協同して、検討する。
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