近年、様々な実験手法により高分子表面でのガラス転移やダイナミクスが明らかになりつつある。しかしながら、異種相と接した高分子界面の構造・物性に関してはその評価方法が確立されていない。本研究ではハードコンタクトレンズを始めとして種々の水和環境下で使用されるポリメタクリル酸メチル(PMMA)に着目し、表面及び水界面における構造・物性について検討した。界面構造の評価は、中性子反射率(NR)測定に基づき行った。試料として重水素化ポリメタクリル酸メチル(dPMMA)を用い、合成石英基板上に製膜した。表面及び水界面におけるPMMAの分子鎖熱運動性は水平力顕微鏡(LFM)を用いて評価した。バルクの分子運動特性は動的粘弾性測定に基づき評価した。 実験で得られた反射率曲線はモデル散乱長密度(b/V)分布を仮定した計算値と良く一致したことから、計算に用いたモデルは試料の組成分布をよく反映しているといえる。このモデルにおいて、PMMAと水の界面は空気との界面と比較してブロードであり、また、水界面近傍には膨潤層が存在していた。 PMMA表面において、セグメント運動に起因したαa過程及び側鎖の運動に関係したβ過程の緩和温度はそれぞれ360K及び290Kであり、バルク値(408K及び337K)と比較して低下していた。この結果は、表面ではバルクと比較して、分子鎖熱運動性が活性化していることを示している。また、水界面では表面αa及びβ緩和温度の間の温度に緩和過程が観測された。以上の結果より、水界面において観測された緩和過程は、収着水分子によって可塑化されたPMMAのセグメント運動に起因すると結論した。
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