本研究の目的は以下の2つである。(1)"強磁場"によってナノ粒子やナノカーボンから構成されるナノ構造を制御する事で新規の固液界面の"極微構造"を構築し、新しい物性をもつ材料を創製する。(2)固液界面に存在するナノ構造におけるスピンを活用する事で、"スピン化学"を用いた固液界面反応ダイナミクスの計測方法を開発する。今年度は以下の研究を行った。 C_<60>-ドナー連結化合物やC_<60>ナノクラスター-メチルフェノチアジン(MePH)系の光誘起電子移動反応において、従来では観測されていない新規の磁場効果を観測している。そこで、これらの溶液系における磁場効果の応用として、C_<60>ナノクラスター-MePH系を金電極に担持した修飾電極を作製した。磁場を印加するとこの修飾電極の光電流が増加した。磁場による光電流の増加量は磁場強度の増加に伴って増大した。この様に、スピン化学によるナノクラスター修飾電極の光電変換機能の磁場制御を達成した。 次に、単層カーボンナノチューブ(SWNT)やSWNTをポリマーでラッピングした複合体のマイカやガラス基板上での磁場配向について、AFMや偏光近赤外可視吸収スペクトル測定によって検討を行った。AFM像を観測すると、無磁場の場合ではSWNTや複合体がランダムに配向している像が観測された。これに対して、8Tの強磁場を基板に対して平行に印加すると、基板上のSWNTや複合体の長軸を磁場方向に対して平行に配向した像が観測された。また、偏光吸収スペクトルを測定すると、磁場を印加した基板では、SWNTの半導体バンドが磁場に対して平行偏光の時のみに観測できた。以上より、強磁場によるSWNTや複合体の磁場配向が起こっていることが明らかになった。さらに、磁場を基板に対して垂直に印加すると、SWNTから成るナノファイバーが組織化したナノ構造体が観測された。
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