本研究では、ピコ秒〜フェムト秒オーダーの極短パルスレーザー光を用いた時間分解分光により、固体表面吸着種の光誘起反応初期過程のダイナミクスを解明し、その知見に基づいた光化学反応制御の可能性を探索することを目的とする。今年度は以下の2点に焦点を絞った研究を行った。 1.K/Cu(111)におけるコヒーレント振動の観測 フェムト秒時間分解第2高調波測定により、これまで調べられていなかった、K/Cu(111)系のコヒーレントなK-Cu伸縮振動の時間領域観測に成功した。振動周波数の被覆率依存性を調べた結果、表面K層が金属化する領域を境に、低被覆率側での3THzから、高被覆率側での5THz付近に振動数が不連続的に変化することを見出した。振動数変化に伴い高被覆率側では位相緩和速度が低被覆率側の約2倍に増大し、表面電子状態の変化に伴う核波束ダイナミクスの変化を明らかにした。 2.紫外フェムト秒パルス列励起による表面光反応の研究 自作の非同軸パラメトリック増幅器の出力とチタンサファイアレーザーの基本波の和周波を発生させることにより、中心波長320nmのフェムト秒パルスを発生し、これを10cm石英ブロックと干渉計に通過させることにより、2THz〜10THzの範囲で可変のパルス列周波数を有するフェムト秒紫外パルス列の発生に成功した。これを励起光源として、別に構築したフェムト秒赤外-可視和周波発生振動分光システムと組み合わせることにより、パルス列誘起の表面反応をモニターするシステムを構築した。これを超高真空下のPt(111)に吸着したNO分子の光刺激脱離に適用し、パルス列誘起のNO分子の光刺激脱離反応断面積を測定できることを確認した。
|