カスケード反応は、一回の反応操作で多数の結合形成あるいは開裂が進行する効率的なプロセスであり、その間に複数の官能基変換や不斉中心の構築を伴う。また、不安定で短寿命の反応中間体を系内で積極的に利用することができ、有機合成で必要とされている保護・脱保護操作を大幅に省略できる。この実現によって、今後ますます強く求められる短行程化・収率向上・廃棄物削減・コスト低下等の課題が解決された環境に優しい近未来型の物質製造法が確立されるであろう。本研究はこのような超効率プロセスを開発することで、将来的には創薬の実用化レベルに発展させることを目的としている。我々はすでに、極性反応、ペリ環状反応、ラジカル反応、さらには遷移金属反応条件下での多様なカスケード反応を実現している。これらを基盤として、虚血による中枢神経細胞死を抑制する物質の化学合成と、新規医薬品の開発を検討した。 セロフェンド酸は牛の胎児の血清中に存在する中枢神経保護作用物質である。その全合成をカスケード反応であるパラジウム触媒シクロアルケニル化反応、ホモアリールラジカル転位反応、[2+4]環化付加反応を鍵反応として達成した。また、位置選択的ラジカル環化反応、[2+4]環化付加反応等のカスケード反応を利用して合成したカウレン型ジテルペンがNMDA受容体のアンタゴニストとして機能することを明らかにした。両架橋化合物はグルタミン酸仮説に基づく神経保護作用物質と考えられるが、それぞれの作用標的は異なるものである。
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