研究概要 |
生体内で不要になったタンパク質は,ユビキチン化された後,プロテアソームにより選択的に分解される。このユビキチン依存的タンパク質分解系は,細胞周期の進行,シグナル伝達,遺伝子発現制御,タンパク質の品質管理などの多様な生命現象に関与している。そして,2003年にアメリカで,プロテアソーム阻害物質であるVelcadeが難治性多発性骨髄腫の治療薬として認可されており,さらに,海洋微生物由来のsalinosporamide Aの臨床試験が開始されることになっている。私たちは,新規抗がん剤の開発のために,ユビキチン依存的タンパク質分解系を標的にして,この系に対する阻害物質を天然資源から探索している。そして既に,(1)プロテアソームに対する阻害物質として種々のagosterol誘導体^<1)>及びsecomycalolide A、(2)ユビキチン活性化酵素(別名E1酵素)に対する阻害物質としてhimeic acid A、(3)がん抑制タンパク質p53とそのユビキチンリガーゼ(別名E3酵素)であるHdm2との相互作用を阻害する物質として(-)-hexylitaconic acid、及び、(4)p53がポリユビキチン化された後にプロテアソームへと運搬されるステップに対する阻害物質としてgirollineを、海綿や海洋真菌から発見・単離した。また、生薬のチモからもプロテアソーム阻害物質の単離に成功している。これら化合物の中で、Hdm2拮抗剤はp53の安定化を誘導し、その結果としてがん細胞の増殖を防ぐ効果が期待できるので、副作用の少ない新しいタイプの抗がん剤として有望であると考えられる。
|