1993年に真菌類より単離されたボトチノリドは植物生長阻害活性を示し、無害な農薬としての利用が期待される天然ポリオキシ化合物である。ボトチノリドおよび2-エピボトチノリドに代表されるこれらの天然類縁体は主骨格として特異な9員環ラクトン構造を有し、また、その全ての炭素上に7つの連続する不斉中心を配するため全合成目標としても非常に魅力ある化合物と考えられる。本研究ではこれらの化合物の大量供給法の確立と構造薬理活性相関探索の先駆けとして不斉合成研究を行った。 まず、スズ(II)トリフラートおよび(S)-ジアミンから調製されるキラル錯体の存在下、乳酸より誘導されたアルデヒドに対してプロピオン酸チオールエステル由来のケイ素エノラートを作用させることにより、高立体選択的にアンチ/シンの相対立体配置を持つ3つの連続する不斉炭素を有するアルドール付加体を得た。続いてWittig反応、アルドール反応によるプロピオン酸単位の増炭を行い、9炭素を有するオレフィンへと誘導し、さらに四酸化オスミウムを作用させて二重結合部位のジヒドロキシル化を行うことにより、7つの連続する不斉中心を持つ閉環前駆体であるセコ酸を得た。このセコ酸の環化に際しては、当研究室で開発された脱水縮合剤である2-メチル-6-ニトロ安息香酸無水物(MNBA)を用いることにより、室温という温和な条件下、目的の9員環ラクトン部位を高収率で得ることができた。引き続き、不斉アルドール反応を活用することで光学活性化合物を調製し、再度MNBAを用いて環状部位との分子間エステル化を行った。最後にTBS基とTHP基の脱保護を施し、2-エピボトチノリド保護体の合成を完了した。
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