ポルフィリンの両面を光学活性ビナフタレンで修飾した双冠型ポルフィリン(TCP)の骨格を用い、酸素活性化に重要である(1)チオレート、イミダゾールなどの軸配位子(2)ヘム鉄に配位した酸素分子に水素結合する水酸基の両方を分子キャビティ内部のヘム鉄近傍の適切な位置に導入した2種類のヘム錯体を合成した。これらの錯体は安定な酸素付加体を与え、さらに、ヘム鉄に配位した酸素分子と水酸基との間の水素結合も存在している。極低温でのγ線照射(クライオラジオリシス)により、イミダゾール配位型錯体(TCP-IM)の酸素付加体を一電子還元して、対応するペルオキシ体やヒドロペルオキシ体を生成させ、同定を行った。ヘリウム温度にて、γ線照射した直後(2K)のESRスペクトルから、TCP-IM錯体の酸素付加体の一電子還元によって、ペルオキソ体が効率よく生成していることが確認された。また、同じ条件下での^1H-ENDORスペクトルでは、鉄3価イオンと強い磁気的相互作用をしている水素原子(超微細結合定数=10MHz)の存在が確認され、ペルオキソ基は近傍のフェノール性水酸基からプロトン化(水素結合)を受けていると考えられる。さらに、133Kに昇温した後のESRスペクトルでは、ヒドロペルオキソ体の生成も確認された。また、同じ条件下での^1H-ENDORスペクトルでは、鉄3価イオン種と強い相互作用をしている水素原子(超微細結合定数=12MHz)の存在が確認され、ヒドロペルオキソ基が配位していることを示唆している。TCP-IMの酸素錯体を用いて、鉄に配位した酸素分子への一電子還元(ペルオキソ基の生成)、およびその後の水酸基からペルオキソ基へのプロトン移動(ヒドロペルオキソ基の生成)という酸素活性化における重要な過程を追跡できた。
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