研究概要 |
6-HPAの二核鉄錯体1とH_2O_2との反応によってパーオキソ二核鉄錯体2が生成する事は、UV-visおよびCSIマススペクトルから明らかにされている。そこで、本年度は錯体2の共鳴ラマンスペクトルを詳細に検討し、その構造を推定した。2の共鳴ラマンスペクトルは870cm^<-1>にvo-oのバンドを示した。この値はL. Que等のパーオキソ二核鉄錯体[Fe_2(O)(O_2)(6-Me_3-TPA)_2](ClO_4)_2(3)の848cm^<-1>よりも約20cm^<-1>高波数であるが、一般的なμ-1,2-パーオキソ錯体の値(880-900cm^<-1>)よりは低波数である。2と3のvo-oが低波数に現れるのはオキソ架橋によってFe-Fe間距離が短くなりFe-O-O角が小さくなる事による。6-HPAの様々なオキソ架橋錯体を合成して、その結晶構造を調べたところ、6-HPAの錯体は対応するTPAの錯体と比べてFe-Fe間距離が大きい事がわかった。従って、2が3よりも大きなO-O振動バンドの値を示すのは、6-HPA配位子によってFe-Fe間距離が伸びてFe-O-O角が大きくなったためと考えられる。さらに、アルケンのエポキシ化反応について、反応機構を明らかにするための研究を行った。パーオキソ錯体2を生成させ、これにアルケンを加えても、分解速度は全く加速されなかった。一方、錯体1と1当量のH_2O_2とを用いてtrans-β-methylstyleneと反応させたところ、加えたH_2O_2あたりほぼ定量的にエポキシドが生成した。これらの結果は、2がエポキシ化の直接の活性種ではなく、2から活性種が生成する反応が律速段階であり、活性種は用いたH_2O_2あたりほぼ定量的に生成する事を示している。我々は昨年度の同位体ラベルの研究から2から活性種としてジオキソ-μ-オキソ二核鉄(IV)錯体4が生成する事を推定しており、本年度の結果と矛盾しない。また、共鳴ラマンスペクトルの結果は、2のFe-Fe間距離が伸びている事を示唆しており、2は活性種を生成しやすい優れた機能モデルであるといえるかもしれない。
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