本研究では、ヘムを活性中心とする気体分子センサータンパク質による気体分子センシング、ならびにシグナル伝達反応の分子機構の解明を目的として研究を行った。主な研究対象としては、枯草菌由来の酸素センサータンパク質であるHemAT、および一酸化炭素を生理的なエフェクターとする新規な転写調節因子であるCooAを用いた。HemATは、酸素に対する走化性制御系においてシグナルトランスデューサーとして機能する酸素センサータンパク質である。共鳴ラマン分光法を用いた解析の結果、エフェクター分子である酸素がヘムに結合した場合、ヘム近傍での水素結合ネットワークの再構築が起こり、その結果、タンパク質の構造変化が誘起されることが分かった。この構造変化の引き金は、His86とヘムプロピオン酸残基との間で形成される水素結合である。この水素結合は、HemATに酸素が結合した場合にのみ誘起され、COあるいはNOのようなエフェクターとしては機能しない気体分子がヘムに結合した場合には誘起されないことが分かった。さらに、His86とヘムプロピオン酸残基との間で水素結合が形成された時にのみ、ヘム遠位側に存在するThr95の配置が変化し、Thr95とヘムに結合した酸素との間に特異的な水素結合が形成されることも分かった。 一酸化炭素を生理的なエフェクターとするCooAについては、好熱性一酸化炭素酸化細菌由来の新規なCooAホモログ(Ch-CooA)を対象とした研究を行い、Ch-CooAの結晶構造解析に成功した。得られた結晶構造をもとにして、CooAによる一酸化炭素センシングの分子機構について考察した。
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