本研究では、沈み込むスラブが最終的に下部マントル底部に達した時主要な構成鉱物となると考えられる、ポストペロフスカイト相の粘弾性的性質に関する研究を、CaIrO_3をモデル物質として行った。 2005年に発表されたMgSiO_3のポストペロフスカイト相の発見以来、この相の大きな弾性的異方性が、地震波で観測されるマントル最下部D"層の特異な性質を説明しうるのではないかと考えられるようになり、多くの議論がなされてきた。しかしそもそもこの議論が成り立つためにはポストペロフスカイト構造を持つ鉱物が、強い選択配向を持って存在することが必要条件であるが、この相がはたしてマントル最下部の条件下で期待されるような選択配向を持つのか否かが全く明らかになっていない。そこで本研究では、同じポストペロフスカイト構造を持ち、1気圧下でも安定に存在するCaIrO_3をモデル物質として、ダイヤモンドアンビル装置を用いて1軸応力下での変形実験を行い、その選択配向の様子を明らかにした。実験は当研究室で開発されたX-ray transparent gasketを用い、ダイヤモンドアンビルを用いたradial diffraction techniqueによりフォトンファクトリーで行った。予めキュービックアンビル装置で合成したペロフスカイト型およびポストペロフスカイト型のCaIrO_3を各々試料室に詰め、1気圧から6GPaまで加圧しながらX線その場観察によりデバイリングの強度変化を観察したところ、ポストペロフスカイト相では加圧変形と共に主加圧軸とb軸が平行になる強い選択配向が起こることが明らかにされた。本研究の結果は、化学組成は全く異なる物質に関して得られたものであるが、変形機構は主として結晶構造によって決まるものなので、沈み込んだスラブ物質がマントル最下部で水平方向の移動・変形を行った場合、類似の選択配向が起こる可能性を強く示唆するものである。現在、このような選択配向が、地震波観測の解釈にどのような制限を与えうるのか、さらに詳しい解析が進行中である。
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