研究概要 |
データの空間的なサンプリングを拡げ、波線がサンプルする密度も増やして行った広帯域波形解析に基づき、千島から日本列島、西太平洋にかけての一連の沈み込み帯で、660km相転移の深さなどマントル遷移層の構造の変化がどのようなメカニズムで起こっているかを詳細に調べた。地震学的構造解析に基づき、遷移層におけるスタグナントスラブの形成や形態の多様性がどのような物理的条件に支配され、どのような条件で下部マントルに沈み込むかなどを考察した。スタグナントスラブに伴って660km相転移の深さが下降していたりしなかったりという違いは、高温高圧物性実験とレオロジー実験の結果を参照に、MORBに由来する沈み込んだ地殻とペリドタイト層という組成の違いで説明できることを提起した。又、波形に現れている3次元構造での高速度異常を評価し、トモグラフィーモデルと波形解析の結果を融合する3次元構造モデルの構築に着手した。震源と観測点を結ぶ波線に沿った2次元構造および広範囲を含む3次元構造を伝播する波形計算には有限差分法のコードを使用しているが、初期モデルの構築では、トモグラフィーモデル(Fukao et al., 2001)にearth flatteningを施し直角座標系のモデルに変換した。初期モデルはトモグラフィーモデルの解像度の制約で、計算できるのは長波長の波形のみであるが、広帯域波形解析に基づく3次元的な構造では、速度異常の振幅は数パーセントあるいはそれ以上に及ぶことがある。今後は、ロシア極東部広帯域地震観測網や海底広帯域観測網からのデータも含めて解析を進める予定で、これらのデータを含めると、既存の観測点のデータでは解像度のなかった詳細な構造が明らかになっていくことと思う。
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