研究課題
これまでの多くの実験事実や理論研究を総合的に眺めてみれば、高温超伝導は電子相関が強いだけでなく、電子フォノン相互作用も強い系で発現しているようである。従って、強相関強結合電子フォノン系を詳細に調べることが重要になると考えられ、その観点・立場から研究を進めてきた。とりわけ、最近発見された転移温度の高い超伝導体の多くはコヒーレンス長ξ_0が短い(実際、銅酸化物高温超伝導体をはじめとして、アルカリ金属をドープしたフラーレン超伝導体、MgB_2、また、有機超伝導体などでは、ξ_0は数nmか、それ以下で、格子定数a_0と同じオーダーである)ので、今年度はそのξ_0の短さを利用した超伝導転移温度T_cの新たな計算法を提案した。これは対相関関数の発散を一般的な立場から考察し直したもので、有限サイズのクラスター計算を基にしてそのサイズを大きくするにつれてT_cが厳密な値に漸近していくように定式化されたものである。そして、その近似の精神においてT行列近似と同種のものであるが、ξ_0が短いときにはクラスターサイト数N_0がたとえ小さいとしても、そのクラスター計算を基礎とした興の評価値は十分に正確なものであると期待できる。さて、この定式化の有効性を確かめるために、フラーレン超伝導体を念頭に置いて、ごく予備的な計算も行った。実験によれば、電子をドープしたC_<60>はξ_0が約2a_0程度で極めて短く、たとえN_0=2としてもある程度正確なT_cが推定できると思えるので、まずは2サイト系の(そこに含まれるパラメータは電子フォノン結合定数αを含めて正常状態の物性を再現できるように選んだ)ハバード・ホルスタイン模型を考えたところ、結晶構造の違いも含めて実験のT_cを大変にうまく再現した。そこで、さらに進んで仮想的ではあるが、正孔をドープしたC_<60>(この場合のαは電子をドープしたC_<60>のαの1.5倍)についてT_cを計算すると、最高で約100K、また、絶縁体固体が既に作られているC_<36>(この場合のαは電子をドープしたC_<60>のαの2倍)のドープが成功すると、最高のT_cは室温程度になることを見出した。今後、N_0を増やして、この予言の精度を上げつつ、かつ、室温超伝導が出現する一般的な条件は(もし、あるとすれば、)何であるのかを明確にしたい。
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International Journal of Modern Physics B 21(印刷中)
Journal of Molecular Structure 830(印刷中)
Journal of Superconductivity 20(印刷中)
Proceedings of the International School of Physics "Enrico Fermi" Course CLXI "Polarons in Bulk Materials and Systems with Reduced Dimensionality" (edited by G. Iadonisi and J. Ranninger) 161
ページ: 207-226
Journal of Superconductivity 18・5/6
ページ: 785-789