近年、個体中の電子のダイナミクスにおいて、非自明なスピン構造を持つ物質群を中心として、従来は無視されてきた量子位相(Berry位相)効果の重要性が指摘されている。フラストレーション系(Moパイロクロア酸化物におけるスピンカイラリティによる特異な異常ホール効果はその一例である。また、ルテニウム酸化物(Sr_<1-x>Ca_xRuO_3)における複雑な異常ホール効果は、電子波動関数の運動量空間における量子位相の効果が顕著に現れたものである。いずれにしても、固体中の電子の輸送現象を理解するには、量子位相の概念が極めて重要不可欠な役割を果たしていることが分かってきた。 本研究では、強磁性金属における異常ホール効果と熱輸送現象を統一的に理解する目的で、様々な強磁性金属に対し、異常ホール効果と、ネルンスト効果の測定を行った。その結果、異常ホール伝導度|σ_<xy>|は低効率ρ_<xx>に対して連続的に変化し、その振る舞いは、ρ_<xx>が10^<-6>〜10^<-4>Ωcmの領域では、Berry位相の効果が支配的で、それよりも低効率が低いclean limitでは、スキュー散乱が支配的であることが分かった。一方、異常ネルンスト効果が観測され、その温度依存性は、物質に関わらず強磁性体転移温度Tc近傍ではほぼ磁化Mに比例し、低温では温度Tに比例して絶対零度に向かってゼロに近づいていく振る舞いを示す。この振る舞いは、ボルツマン方程式から期待される振る舞いに一致することが本研究により理解された。
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