マンガン酸化物では強磁性金属相と反強磁性電荷整列絶縁体相とが競合する状態にある。両相境界の近傍では少しの外場で物性が大きく変化する巨大応答が可能になるが、固溶体では避けられない乱れの効果が時として相分離現象を引き起こす。 我々は過去の研究でこの系における相分離状態を磁気光学イメージング法で可視化し、電流印加時の自己発熱効果による相分離状態の制御について研究してきた。本年度ではそれを発展させて実際に自己発熱による熱サイクルで電子系の固体-液体状態を作り分ける、いわゆる電子相変化メモリ効果を実演した。また自己発熱効果を用いることで可能になる弱磁場巨大磁気抵抗効果を室温で実現する事にも成功した。 これらの現象をより実用的な環境に近づけるには、非常に強い電荷・軌道整列への不安定性を導入する必用がある。そこでマンガン酸化物中最高の電荷・軌道整列転移温度を示すビスマス系マンガン酸化物に注目した。ビスマスを含むマンガン酸化物はフローティングゾーン法による結晶成長が困難であるため、フラックス法を用いて結晶を育成し、電気抵抗および磁化測定や粉末X線回折という基本的測定に加えて、透過電子顕微鏡による超格子の観測、60Tまでのパルス磁場下における磁気抵抗・磁化測定、熱起電力測定など多岐にわたる研究を展開してきた。ここでは字数の都合上、その一部のみ紹介する。室温で強磁性金属であるランタン系マンガン酸化物と、570K以下で電荷整列現象を起こすビスマス系マンガン酸化物の混晶を作ると室温以上に多重臨界点が存在する事がわかった。この混晶系ではランタン-ビスマス比が不均一になる場合があり、化学的不均一の有無を確認するために磁気光学イメージング法を使用した。フラックス法で組成を精密に調整する事は困難であるが、臨界点ごく近傍の試料を制御性良く作成できれば室温での巨大外場応答も実現可能であると期待できる。
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