研究概要 |
局在スピンを持つパイロクロア型酸化物磁性体は、数多く知られているが、これまで報告されていたものすべてが比較的高い温度で磁気転移を示す。特に金属でありながら局在スピンが低温まで秩序を示さないというものは皆無であった。我々は、Pr2Ir2O7がその初めての例であり、低温でスピン液体的に振る舞うことを、最近育成に成功した単結晶での研究により見出した。さらに、RKKY相互作用による磁気秩序が押さえられたことで、量子伝導現象として酸化物で初めての近藤効果が見られた。一方、この近藤効果により、スピンは低温で完全には消失せず、低温で短距離相間を発達させることが、磁化率・比熱測定より明らかになった。さらに、低温のスピン液体状態は磁化率が1nT的発散減少、比熱がT^(1/2)則に特徴付けられることを明らかにした。 次に競合した磁気相関を持つ量子物質として、Ca2-xSrxRuO4を取り上げた。この系は我々が開発した、軌道の秩序により様々な基底状態をとる多重バンド型モット転移系である。モット転移近傍の重い電子状態でのメタ磁性転移の研究から、数テスラの磁場で100%もの大きな正の磁気抵抗を示し強磁性に転移するが、同時に金属では非常にまれな軌道の転移が、この磁気転移に伴っている可能性を明らかにした。メタ磁性転移点近傍での電子構造の変化を、電気抵抗・ホール係数の精密測定からプローブし、角度依存型磁気抵抗効果等の興味深い量子伝導現象を見出した。重い電子フェルミ液体のフェルミ面の形状を反映したc軸方向の磁気抵抗の面内方位依存性が、低磁場の2回対称から擬4回対称へと変化している。このような低磁場でのバンド(軌道)構造の変化は、この系における競合した磁気相関による量子効果である。一次元的バンド(dyz,zx)が支配的な反強磁性状態から2次元的なバンド(dxy)による強磁性に、数テスラの磁場によりスイッチングが起こったと考えられる。
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