前任の研究所から大阪大学へ移設した結晶引き上げ炉でこれまで通りの大きさ・品質の結晶を育成するための条件出しに時間を要した。特にこれまで大気開放で結晶育成を行ってきたため、実験室の湿度の違いは溶液の融点に大きく影響した。これを解決するため、炉にフタをし、酸素ガス雰囲気中で育成するという方式に変更した。その結果、良質の結晶が育成できるようになった。 ラマン散乱分光による超伝導ギャップの研究については、無双晶化し高酸素濃度に調整した結晶を用いて、さまざまな偏光方向のスペクトルを測定した。その結果、超伝導転移温度の低下に従って、電子ラマン散乱の対破壊ピークが低エネルギー側にシフトする様子が見られた。今後、更に酸素濃度を細かく制御した試料、またCa置換を行って更にキャリア濃度を高くした試料について、系統的な測定を行う予定である。 電気抵抗率については、Ca置換によってキャリア注入されるにも関わらず、抵抗が増加し、面内抵抗率と面間抵抗率の比も増加する傾向が見られた。これは、当初予想していた「キャリア注入による電子状態の3次元化」とは反対の傾向といえる。原因の一つとして、Ca濃度が増すにつれて、CuO鎖の酸素欠損量が増加することが考えられる。CuO_2面内の電気伝導性は増加していても、CuO鎖の部分の伝導性が悪くなると、全体としては抵抗率が増加する。このCuO鎖の伝導性低下は、面間電気伝導に最も大きな影響を与えるため、結果として抵抗率の異方性比が増加したと考えられる。これは、CuO_2面の電子状態の次元性とは別のものを見ていることになり、本当の意味でCuO_2面のみの電気抵抗率を見るためには、無双晶化が必要である。今後は、無双晶結晶を用い、磁場をa軸及びc軸に平行にかけて、抵抗率を測定する予定である。
|