研究概要 |
強相関電子系物質における電子相関の本質を探ることを目標に、酸化物超伝導体を対象に共鳴非弾性X線散乱によって広い運動量およびエネルギー空間での電子励起状態を直接観察し、これらを理論計算と比較することにより電子相関の定量的な議論を行った。第三世代放射光源の利用によりX線非弾性散乱実験が現実のものとなり、X線は電子と直接相互作用をするためにこのような議論が可能となったものである。実験は、SPring-8の原子力機構の専用ビームラインBL-11XUで行い、電子ドープ系のNd_<1.85>Ce_<0.15>CuO_4(NCCO),ホールドープ系のYB_2Cu_3O_<7-δ>(YBCO)のCuのK-edge共鳴を利用して電子励起状態を観測し、モットギャップの状態がキャリアードーピングでどのように変化していくかを観察した。YBCOではtwin-freeの単結晶を用意しCuO chainとCuO2 planeに帰属される電子励起を分けて議論することに成功し、chainの電荷移動ギャップがplaneのそれより小さいことが明らかとなった。また、NCCOではドーピングしたことによってバンド間励起に加えてバンド内励起も観測することができ、前者はゾーンセンターで約2eVのエネルギーを持ち(π,π),(π,0)の方向に運動量増加に伴ってエネルギーが広がっていく。後者は広がったスペクトルを示し(0,0)から(π,π),(π,0)へと運動量が増加するにしたがって高いエネルギーにシフトしていく分散が観測された。ホールドープ系と比較するとこれらのデータは反強磁性相関の違いがスペクトルに反映されているようである。このスペクトルは、ハバードモデルに基づいた厳密対角化による理論計算において電荷密度揺らぎスペクトルとよい一致を見ることができた。このように理論計算で求められる物理量を直接実験データとして得られることは今後の強相関電子系の研究において大きな意義がある。
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