研究課題
銅酸化物超伝導体におけるブロック層の「乱れ」の効果とCuO2層の枚数が超伝導特性に与える影響を調べてTcの向上指針を探ると共に、CuO2面を4枚有する頂点フッ素系単結晶について光電子分光測定を行い、下記の結果を得た。1.ブロック層の乱れによる不均一局所的格子歪みの大きさを制御したBi2Sr2-xLnxCuO6+δ(Ln=La,Gd等)においてSTM/STS測定を行った。その結果、いずれの系にもナノメートルスケールのギャップ不均一性が存在するものの、特に局所的格子歪みの大きいLn=Gdでは不均一性が大きく(D>50meV)かつV型の構造を有する、いわゆる擬ギャップ型の特徴を示す領域が顕著だった。擬ギャップ領域の増大は、Bi2212の不足ドープ領域においても観測されており、CuO2面外の化学的不均一性が擬ギャップ領域の増大(=超伝導領域の減少)に起因するものであることを示している。2.CuO2面の多層効果ブロック層の乱れはTcに破壊的効果を与えるが、多層型ではブロック層から離れている内側のCuO2面(IP)は乱れの影響を受けにくいため、IPへの最適なキャリアドープ実現により、より高いTcが期待できる。Hg系およびF系多層型超伝導体のTcとCuO2面の枚数(n)との関係を調べた結果、n=3においてTcの最大値を有し、n=5以上ではそのTcはほぼ一定となった。これは、多層系では、ドープされたキャリアがほぼ外側のCuO2面(OP)に偏在し、IPへのキャリアドープが有効に行われなかったことを示唆している。3.セルフドーピングの可能性ブロック層を乱さず、かつ、IP、OP共にキャリアがドープされた状況が実現していることを示唆する結果が、n=4のF系単結晶の光電子分光によって得られた。IP、OPに対応する2本のバンドが観測されており、かつその面積から各々のバンドにドープされたキャリア数を見積もると、正孔0.2(Band P)、電子0.2(Band N)となる。このことは、本系ではIPからOPへ(あるいはOPからIPへ)電子が移動し、それぞれ正孔、電子がドープされた状態となり、Tc=55Kの超伝導が実現したことを示している。
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