研究概要 |
太陽系外惑星系に付随する降着円盤をはじめとした恒星周囲の物理化学環境を、天体観測から正しく推定するためには、地上実験で得られた様々な物質の赤外分光測定データが不可欠である。本研究課題の目標は、観測研究によって得られたスペクトルフィーチャーから星周ダストの化学組成や温度を精密に推定するために、星周塵模擬物質を用いて組成と温度に関する詳細なスペクトル挙動の依存性を実験室で調べることである。星周塵の主要な構成鉱物と考えられるカンラン石(Mg,Fe)_2SiO_4や輝石(Mg,Fe)SiO_3は、鉄とマグネシウムを各々の端成分とする固溶体を形成する。化学組成に依存するスペクトル変化の挙動は吸収ピークの位置や半値幅に系統的に現れ、観測と比較することにより、星周鉱物の鉱物種や化学組成の推定が可能となる。昨年度までに、数種類の星周塵候補鉱物の常温での測定がほぼ完了したので、本年度はその中でも特に重要であると考えられる鉄を僅かに含んだカンラン石を用い、常温から7K程度の極低温まで温度を変化させて、スペクトルの温度依存性を詳細に調べた。これによって化学組成と温度の両方の依存性が明らかになった。赤外線吸収スペクトルは低温になるとピークの位置が短波長にシフトし、劇的な半値幅の減少を伴ってピーク強度が増大した。これらの現象は、低温において固体の体積が縮小したことに伴い各元素間の結合の剛性が増加した事と、熱擾乱の効果が減少した事で説明される。これまでに得られていた観測データと比較を行ったところ、星周に存在すると考えられるカンラン石中の鉄の濃度は、多くても2%を超えることはなく、その場合ダストの温度は100Kから150K以下でなければならないという結論を得た。これにより、これまで長く議論されてきた星周塵の化学組成範囲と温度条件について、これまでよりも精密な制限をつけることが可能となった。
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