透過電子顕微鏡の高い分解能は、ナノスケール現象を観察するのに最適である。金属酸化物の酸素イオン伝導体の結晶成長や相変態には、金属と酸化物の界面での酸素イオン移動が大きな役割をになう。 本研究では、ナノイオニクスデバイス内におけるイオンの移動現象におけるイオン伝導体・金属界面の役割を解明するための、透過電子顕微鏡内その場観察手法の開発を試み、その結果を用いてイオン伝導性の考えられるニッケルや銅の酸化物超微粒子の、高温での酸化・還元過程における金属/酸化物界面の構造や酸素イオンの運動を、制御された酸素分圧下で透過電子顕微鏡を用いて原子レベルの分解能で解析した。また、次世代触媒担体であるセリア・ジルコニア酸化物と金属界面での酸素イオンの運動を原子レベルでの結晶構造変化よりとらえることを試みた。 観察手法の開発においては、透過電子顕微鏡内その場観察のためのガス直接照射型雰囲気加熱ホルダーと、試料に電圧・電流を印加しながら試料回りの雰囲気を変えるマイクロ電極付きガス直接照射型雰囲気ホルダーを開発した。基本型としてガス直接照射型雰囲気加熱ホルダーを作製し、加熱用ヒーターフィラメントと交換可能なマイクロ電極を作製した。試料に電圧・電流を印加しながらその場観察をするために、簡易型の電場観察法を開発し影像歪み法と命名した。これらの成果を元に、DiamondまたはAl_2O_3粉末上のNiO粒子やCu粒子にO_2ガスを導入し、酸化反応を観察した。セリア・ジルコニア酸化物の酸化実験においては、β-Ce_2Zr_2O_<7.5>を1×10^<-5>Pa中で400℃に加熱し還元しCe_2Zr_2O_7とした試料を1×10^<-2>Pa酸素雰囲気中で常温酸化した。実験にはPt微粒子を担持させたものと、Ce_2Zr_2O_7のみの粉末用いた。試料への電圧印加にはガスホルダーのヒーター電極に櫛状の電極を取り付け、電極間には最大25Vの電圧を印可した。試料近傍の電場強度は影像歪法を用いて測定した。NiおよびCu酸化過程で、酸素あるいは酸素イオンの界面拡散が大きな役割をすることが分かった。セリア・ジルコニアでは、Pt/ Ce_2Zr_2O_7界面の存在が酸素あるいは酸素イオンの拡散を誘起していることが分かった。また12.5×10^2V/mm程度の外部電場では、同等の変化は引き起こせないことが分かった。
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