研究概要 |
準結晶構造がもつ自己相似性を利用して、希土類金属のメゾスコピック階層構造の実現をめざして研究を推進した。 1.ランタン系列元素を含む新準結晶合金の探索 Zn-Fe-Sc準結晶中のScを同じ3価の金属であるランタン系列元素によって置換できないかを検討した。ランタン系列のなかでも比較的小さな原子半径をもつHo、Er、Tmについて実験を行ったところ、いずれの元素についてもScの約50%程度を置換できることが判った。これらは、Zn77Fe7Sc8(Ho,Er,Tm)8の組成をもっ単純格子型(P型)正20面体準結晶であり、700℃において熱力学的に安定であることが判った。化学量論比から、結晶学的にはScのサイトをランタン系列元素が置換しているものと考えられる。これらの準結晶は、Feとランタン系列元素の2サイトに磁性元素を含む初めての安定準結晶である。この結果は、2005年秋の日本物理学会において発表した(20aYK-6)。 2.ランタン系列元素を含む新準結晶の磁性 Zn77Fe7Sc16-x(Ho,Er,Tm)x(0≦x≦8)の組成を持つ準結晶について、磁気特性の予備的結果を得た。磁気測定は、2〜300Kの温度領域、外部磁場〜70KOeで行った。いずれの合金についても、約10K以上の温度領域でCurie-Weiss則に従う温度変化が観察された。Tmを8at.%含む試料では、Curie定数は、8.61×10^<-3> cgsemu K/gと見積もられた。この値は、TmだけでなくFe原子も磁気モーメントを持っていることを示している。Ho,Er,Tmいずれの場合も、凍結温度約10K以下でスピングラス類似状態が出現した。 3.Zn-Fe-Sc正20面体準結晶のマイクロボイドの研究 Zn-Fe-Sc合金のミリメートルサイズ単準結晶中には、直径2〜50ミクロンのボイド(空洞)が多数形成される。これらのマイクロボイドの形状は、正12面体や複雑な面取りをもつなど、正20面体対称性を反映したものになっている。これらのマイクロボイドの形成メカニズムを明らかにする目的で、ボイドのサイズの熱処理依存性を調べた。その結果、液相からの冷却速度が小さく、700℃での焼鈍時間が長いほど大きなボイドが形成する傾向が明らかとなった。これは、過剰空孔の析出・凝集によってボイドが形成されることを示唆している。この形成モデルの確証を得るために、実験を継続中である。
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