研究概要 |
希土類金属イオンと大環状有機配位子p-tert-ブチルスルホニルカリックスアレーンとの反応により、ナノサイズのクラスター錯体4種をそれぞれ選択的に合成することに成功した.特にコーン型のカリックスアレーンにより形成された二核錯体およびキュバン型四核錯体において特徴的な発光挙動が観測され,その機構の詳細について解明した.この大環状配位子は分子全体に広がったπ共役系を有し,π-π励起は360〜380nmと低エネルギー領域に存在する.配位子の励起三重項エネルギーはEu(III),Tb(III)のf-f*励起エネルギーよりわずかに高いため,配位子励起に引き続くf-f*励起の進行は,配位子の励起三重項状態と希土類金属イオンのf*励起準位のエネルギーマッチングにより大きな影響を受ける.一方,配位子全体に広がったπ系のエネルギーは,配位子の幾何構造の変化によりわずかながらも影響を受ける.つまり,歪の大きな二核錯体に比べ,歪の小さいキュパン型錯体における励起波長は20nmほど低エネルギーシフトする.この結果,等構造をとるEu(III),Tb(III)錯体に於いて,Eu(III)錯体はキュバン構造に於いて,Tb(III)錯体は二核構造に於いてのみ発光すると言う特異な選択性を発現することが明らかとなった.この現象については,分子軌道計算に基づく考察を行い,この機構の正しさが理論的な面からも証明された.また,Eu(III)キュバン錯体においては,配位子の励起一重項状態からの直接エネルギー移動による発光と言う珍しい現象も見出された.
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