研究概要 |
本研究では、希土類イオン-ナノ粒子間エネルギー移動現象を利用した高効率三原色蛍光体の開発を目指し、(A)半導体ナノ結晶の合成とガラスへの分散技術、(B)ナノ結晶を利用した希土類イオン高効率蛍光体の作製と構造・組織について検討した。そして、ガラス内部に閉じ込めた半導体ナノ結晶SnO_2:Eu^<3+>が近紫外光励起(〜340nm)により強い赤色発光を示すことが分かった。また、還元処理によるナノ結晶の消滅および800nmフェムト秒レーザー照射による再ナノ結晶化についても調査し、Eu^<3+>イオンははじめ優先的にSnO_2ナノ結晶中に導入され、強い赤色発光には半導体ナノ結晶からのエネルギー移動が大きな役割を担っていることが分かった。今回新たに、フェムト秒レーザーを照射して微小領域にナノ結晶を再析出させる技術を用いて得られたEu^<3+>高効率発光についても調べた。また、SnO_2半導体ナノ結晶に青色発光を示すCe^<3+>をドープすることも試み、青色発光の基礎特性について研究した結果を報告する。 組成はEu_2O_3を1wt%添加した5SnO_2・95SiO_2である。原料としてSi(OC_2H_5)_4(TEOS),SnCl_2・2H_2O,EuCl_3・7H_2Oを用いたゾルゲル法により、まずEu^<3+>とSn^<2+>を含むSiO_2ゲルを作製した。150℃,30hの水蒸気処理を行った後、空気中700℃で5h加熱することでガラス試料を得た(このガラス内には粒径約5nmのSnO_2ナノ結晶が析出している)。その後20%H_2-80%N_2雰囲気中500℃で5時間熱処理を行い試料とした。さらに、このガラスにフェムト秒レーザー(Spectra Physics, Hurricane,800nm,1kHz,170fs,600W/cm^2)を照射し、発光スペクトルの測定とTEM観察を行った。光源には、N_2レーザー(337nm)を用いた。 まず、500℃の還元雰囲気で加熱することでSnO_2:Eu^<3+>ナノ結晶は消失し400nmにピークを持つ2配位Sn(>Sn^<2+>)からの発光が支配的となることが分かった。さらにこのガラスにフェムト秒レーザーを照射すると2配位Snからの発光は減少し、照射時間と共にEu^<3+>イオンからの発光が再び現れた。TEM観察からSnO_2微結晶の再析出も確認した。励起スペクトルの測定結果より、Eu^<3+>の発光はSnO_2半導体からのエネルギー移動によるものであることが分かった。 次に、Ce_2O_3を1wt%添加したガラスも上記と同様な方法で作製した。加熱温度は600〜900℃の範囲で変化させ、加熱時間は5hとした。比較のためCe_2O_3添加SiO_2ガラスも作製し発光特性を比較した。測定に際してはCCDのゲート時間を制御した時間分解発光スペクトルの手法を用いた。 Ce^<3+>添加SnO_2-SiO_2ガラスの青色発光はCe^<3+>添加SiO_2ガラスのものよりも弱いが、SnO_2ナノ結晶が存在することでCe^<3+>青色発光の温度消光を抑えることができることが分かった。これは、Ce^<3+>からSnO_2ナノ結晶、またはSnO_2ナノ結晶からCe^<3+>へのエネルギー移動が大きく影響しているためであると考えられる。また、10msオーダーの寿命をもつ500nmバンド発光を初めて発見した。この起源を明らかにすることで青色発光効率が改善されると考えられる。
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