本年度は、Nd_2Fe_<14>B系焼結磁石について、その調製時のアニール温度と、焼結体の結晶粒子径を制御した試料群(Dy金属添加物を含まない5種類の試料を調製)の保磁力の変化を磁気特性解析(本グループ独自のステップ法を用いた)を行なった。その結果、第一に焼結体の最終アニール温度が780K近傍である場合と、それよりも200Kほど高温の場合では、保磁力が約50%前者で高い(=12.5k Oe)ことの現象論的な理由を確かめた。すなわち、前者の試料では、結晶粒子群中の単磁区粒子化するためにより高い磁場(工業的な5Tパルス磁場)を必要とする(熱消磁状態における)多磁区粒子の割合が高く、それらの粒子が、ヒステリシス曲線の第2、3象限でも、より高い反対方向の磁場印加がなければ磁化反転しないことが、保磁力の向上に結びつくことが明瞭になった。 一方、結晶粒子径を工業的に通常調製できる5-10μmよりも微細化すると、平均粒子径が約3μmの試料では、単磁区粒子として振舞う粒子の体積分率が35%程度まで上昇することで(ちなみに、工業的な試料で最適アニールを施した場合のそれは約22%)保磁力は約16k Oe程度まで向上する。この場合は、着磁磁場が1.7T程度と5Tパルス磁場の場合では、各分類粒子(単磁区粒子、多磁区粒子、着磁されうる多磁区粒子)の体積分率は、それほど大きな変化は示さない。以上から、これまで工業的に注目されてきたアニール温度の最適化とともに、結晶粒子径の微細化も保磁力を向上させる要因として重要であることが明らかになった。 さらに、焼結体内部の結晶粒子内の磁区構造を間接的に観察する方法を、カー効果偏光顕微鏡を用いる観察方法で見出したので、その観察と磁気測定における磁化反転挙動を結びつける方向の研究もスタートさせた。
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