研究概要 |
最終分化をした細胞は再び分裂することはないと考えられていた.しかし私たちは,最終分化をして細胞融合により多核になったマウス培養骨格筋筋管細胞にSV40 large T抗原を発現させると,脱分化をして細胞分裂が起こることを明らかにして,それまでの概念を覆した.私たちはさらに,成体マウス骨格筋にAAVベクターを用いてホメオボックス遺伝子Msx1を発現させた場合にも,成熟筋細胞(筋線維)が脱分化して単核細胞が多数生ずることを示している.これらの単核細胞はMsx1の発現が低下した後に,再び分化して筋再生をした.これらの単核細胞を単離して骨格筋細胞の分化条件下で培養すると,再び分化して筋管細胞を形成した.一方,脂肪細胞や骨細胞の分化条件下で培養すると,それぞれ脂肪細胞と骨細胞に分化転換した.そこでMsx1による脱分化細胞が多能性幹細胞の状態になっている可能性を検討し,さらにその分子機構を解析した.脱分化細胞の集団では,骨格筋の幹細胞の一種である衛星細胞の集団と比較して,幹細胞マーカーのSca-1とCD34の発現量が顕著に上昇していることがフローサイトメトリーにより示された.これらのことから,脱分化細胞は衛星細胞とは異なる分化多能性をもつ幹細胞の状態になっている可能性が示された.さらにC2C12細胞にMsx1を発現させた場合にも,Sca-1の発現が上昇した.したがってMsx1がSca-1の発現を誘導していると考えられる.Msx1の発現はBMP4や複数のFGF(FGF2,4,8)により誘導されることが知られている.またニワトリ肢芽ではFGFによるMsx1の発現誘導は転写因子のNF-κB(Rel)を介してもたらされることが示されている.C2C12細胞にRelを過剰発現させると,核にRelが局在している細胞では内在性のMsx1の発現が検出された.この結果から,マウス骨格筋細胞においてもRelがMsx1の転写を誘導することによりその発現を引き起こしていると考えられる.したがって筋管細胞や筋線維においてRelを活性化するシグナルが生ずれば,脱分化が起こる可能性が考えられる.
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