研究課題
リンパ管は血管とともに生体内の恒常性の維持、代謝、免疫応答など生理的に重要な役割を担っているだけでなく、悪性腫瘍の転移などの病的状態にも関与していることが示唆されている。しかし、リンパ管の発生・新生を調節する分子機構には未解明な部分が多い。ホメオボックス転写因子Prox1は脈管系においてはリンパ管内皮細胞に特異的に発現し、そのノックアウトマウスにおいて静脈からのリンパ管の発芽が停止することから、リンパ管の発生に必須の転写因子であることが知られている.私は血管内皮細胞がリンパ管内皮細胞へと分化する過程でのProx1の機能を解析するために、ES細胞由来血管細胞およびヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)におけるProx1の作用を検討した。HUVEC及びES細胞由来の血管細胞にProx1を発現させることで、血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)-3の発現亢進が認められ、HUVECではVEGFR-2の発現の減少も認められた。これらの受容体の発現変化に伴ってProx1を発現した血管内皮細胞ではVEGF-A(VEGFR-2に対するリガンド)に対する走化性が低下し、VEGF-C(VEGFR-3に対するリガンド)に対する走化性が上昇した。また、Prox1を発現した血管内皮細胞ではシート形成が阻害され、integrin α9の発現が亢進していた。integrin α9の中和抗体により内皮シート形成阻害および運動性亢進が抑制されたことより、その分子メカニズムのひとつと考えられた。また近年、血小板由来増殖因子(PDGF)シグナルが成熟個体のリンパ管新生を起こしうることが報告されたが、Prox1を発現したHUVECではPDGF受容体(PDGFR)-βの発現が上昇しており、PDGF-BBに対する走化性が亢進した。しかし、このPDGFR-β発現亢進はES由来血管細胞では認められなかった。以上より、Prox1は血管内皮細胞において、VEGFR、PDGFR、integrin α9などの発現を調節することで、内皮細胞の運動性や走化性を調節し、リンパ管発生・新生において重要な役割を果たしていることが示唆された。
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