研究概要 |
ドナー細胞の染色体構造の初期化が不十分であることにより、体細胞クローンの多くは、発生過程で死滅し、ごく一部の発生した個体でも短命や形態などの異常が観察されている。リプログラミングされた幹細胞の染色体構造は、分化に伴い徐々に不活性な状態(それぞれの細胞に特異的な状態)へと変化していく。本研究では、幹細胞の染色体構造の分化に伴うエピジェネティックな変動を検討する。ヘテロクロマチン構造は染色体構造の不活性化に重要な構造であることから、この構造を規定しているHP1(Heterochromatin Protein 1)は染色体構造状態を検定するマーカーになると考えた。哺乳類ではHP1は3種のファミリーHP1α,β,γが存在し、それぞれがホモダイマーやヘテロダイマーを形成して、様々な生命現象に関与していると考えられている。これまでのES細胞、EC細胞などの未分化細胞、間葉系幹細胞、脂肪前駆細胞などの組織前駆細胞などを含めた計16種以上のマウス由来の培養細胞におけるHP1α,β,γの細胞内局在を解析した。また、HP1α,β,γに対する抗体を用いたクロマチン免疫沈降実験(ChIP)を行い、ES細胞の分化に伴う染色体結合領域の変動を解析している。さらにES細胞、GS細胞、mGS細胞とこれらの細胞の分化後の細胞における遺伝子発現の変動をDNAアレイで検討し、幹細胞で特異的な発現をしている遺伝子を抽出した。現在は、これら幹細胞で特異的な遺伝子のプロモーター領域やセントロメア領域、テロメア領域、インプリンティング領域など、HP1α,β,γが関与することが予想される領域に対するタイリングアレイ(ゲノムの一定領域について、25-50bp程度のオリゴヌクレオチドを、高密度に並べたDNAアレイ)をデザインしている。
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