本研究では、私達が単離した新規BMPアンタゴニストTsukushi遺伝子の網膜神経幹細胞における細胞増殖・分化機構の解明を目的とし、ニワトリ胚眼胞に遺伝子を導入する系を主に用いてBMP-Tukushiシグナルの幹細胞における役割を検討した。 私達は、Tukushiが様々な動物種を越えて、網膜幹細胞が局在する毛様体辺縁部に発現していることを見出している。また、ニワトリ胚の眼におけるTukushiの発現パターンがWnt2bと全く同じであることに気付き、TukushiとWnt2bの分子間相互作用の検討を行った。ステージ9-10のニワトリ胚眼胞にWnt2bをRCASベクターを用いて導入し、過剰発現させると、網膜前駆細胞は分化することなく増殖を続けることが理研の中川らのグループから報告されている。そこで私達は、Wnt2bと共にTukushiを共発現させ、細胞増殖への影響を調べた。Wnt2bを眼胞に単独で感染させ、1週間培養した場合には、切り出した網膜組織片1個あたりの細胞数はコントロールと比べ約200倍に増えるが、Wnt2b+Tukushiを感染させた場合には、細胞の増殖がコントロールの約2倍しか増加しなかった。また、生化学的解析を行ったところ、TukushiはWnt2bの受容体であるFrizzled8と結合することが明らかになった。 以上の結果から、TukushiはWnt2bと競合してFrizzled8に結合することにより、網膜前駆細胞の増殖を制御していることが明らかになった。今後は、TukushiのFrizzledに対する特異性や網膜前駆細胞の分化への影響を調べていく予定である。
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