研究概要 |
私達がクローニングしたTsukushiは、decorinやbiglycanが属するスモールロイシンリッチプロテオグリカンファミリーのメンバーである。アフリカツメガエル胚を用いたmRNA微量注入法、ニワトリ初期胚での移植実験、生化学的解析により、Tsukushiは新しいタイプのBMPアンタゴニストであり、形づくりにおいて重要なコンポーネントのひとつであることを報告している(Ohta et al., Dev.Cell 2004 ; Ohta et al., Development 2006 ; Kuriyama et al., Development 2006)。 網膜に置いて、Tsukushiは生物種を越えて成体網膜幹細胞を多く含む毛様体周縁部に発現している。神経網膜幹細胞とは、眼を構成する6つの神経細胞と1つのグリア細胞に分化する「多能性」とその多能性を維持したまま増殖できる「自己複製能」を兼ね備えた細胞と定義でき、適切なフィードバックのもとに分化と自己複製を繰り返しながら、生体内ではその数が一定に保たれている。Wnt2bは、網膜幹細胞を未分化状態で増殖させることが報告されているが、私達はTsukushiがWnt2bによる細胞増殖効果を抑制することを見出している。Wntは細胞外で受容体であるFrizzled、LRP5/6と複合体を形成することにより細胞内へシグナルを伝える。Wnt経路を細胞外で阻害するアンタゴニストは2つに分類され、1つはWntに直接作用してその受容体への結合を妨げる分子群、もう一方は、LRP5/6に結合して複合体の形成を阻害するDkk-1である。私達は、TsukushiがFrizzledに直接結合してWnt2bの機能を間接的に阻害することを明らかにしており、これは細胞外における、全く新しいタイプのWntシグナル伝達経路の阻害機構である。
|