研究概要 |
本研究においては老化・寿命制御に関っている分子の幹細胞機能における役割を明らかにすることを目的とした。これまで、ヒトの遺伝疾患で、早期老化症や腫瘍化を示す小脳失調性血管拡張症(Ataxia Teleangiectasia)と幹細胞の関係を明らかにしてきたが、ATMがいかに幹細胞機能を制御しているか、その幹細胞制御様式を詳細に検討した。その結果、ATM欠損によって上昇した活性酸素に反応し、幹細胞レベルでp38MAPKがリン酸化されていることが判明した。また同時に、未分化な細胞ほどp16,p19の上昇が認められた。そこで、p38MAPK阻害剤をATM欠損マウスに投与し、その後骨髄移植によって幹細胞の能力を検討したところ、ほぼ正常レベルまで回復していた。次に、正常での幹細胞の再生能を検討するため、連続骨髄移植を行った。正常マウスから幹細胞分画(c-kit陽性Sca-1陽性lineage陰性、KSL)を移植し4ヶ月後、再構築された幹細胞集団を採取し、次のレシピエントマウスに移植する。同様に移植を繰り返すと、3回目には、再構築能が低下し始め、5回目にはほぼその能力を失った。その際、活性酸素レベルの上昇が認められ、また再構築された幹細胞ではp38MAPKが活性化されていた。そこで、p38MAPK阻害剤を投与し、連続骨髄移植を行ったところ、幹細胞の再生能の低下が抑制されることを見出した。以上のことから、正常の幹細胞も分裂を繰り返すと活性酸素の上昇とp38MAPKの活性が上昇することが原因で、再生能の枯渇が起こることが明らかとなった。
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