研究概要 |
神経幹細胞は全ての神経細胞・グリア細胞の起源であり、哺乳類脳の発生・構築に重要であるにもかかわらず、神経組織発生初期における神経幹細胞自体の生成の分子機構は、不明な点が多い。我々はこれまでに、マウス胚性幹細胞(ES細胞)からleukemia inhibitory factor (LIF)依存性未分化神経幹細胞をin vitroで誘導できること、マウス胎生5.5-7.5日胚にもLIF依存性に増殖し浮遊細胞塊を形成する未分化神経幹細胞が存在することを報告してきた。本研究は、多能性幹細胞からLIF依存性未分化神経幹細胞、未分化神経幹細胞からfibroblast growth factor-2依存性神経幹細胞へと分化していく際に働く因子の同定を目指している。昨年度はvascular endothelial growth factor (VEGF)-Flk1シグナルについて報告した。すなわち、Flk1^<-/->ES細胞や神経幹細胞特異的Flk1コンディショナルノックアウトマウスなどを用いた解析から、VEGF-Flk1シグナルが未分化神経幹細胞の形成に対して抑制的に働く一方で、神経幹細胞の維持には促進的に働くことを明らかにした。本年度は、未分化神経幹細胞から神経幹細胞への分化に関与する遺伝子としてglialcells missing (gcm)遺伝子を同定した。gcm遺伝子は、Drosophilaでの研究からグリアと神経細胞間の運命決定を担うと考えられているが、神経幹細胞の発生や維持に対する機能はわかっていなかった。gcm遺伝子の哺乳類におけるホモログであるgcm1,gcm2遺伝子のダブルノックアウトマウスを作成し、未分化神経幹細胞から神経幹細胞への分化を解析したところ、神経幹細胞への分化誘導が抑制されていた。一方で、形成された神経幹細胞をin vitroでさらに分化させると、神経細胞とともにアストロサイト,オリゴデンドロサイトが認められることから、gcm1,gcm2遺伝子はグリアの発生に必須ではないと考えられた。
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