研究概要 |
未分化マウス胚性幹細胞(以下ES細胞)の細胞周期進行は、分化細胞のそれとは際立って異なる。増殖サイクルは10時間程であり、大部分S期とM期からなり、G1期とG2期は大変短い。ES細胞の自己複製はこのような特徴的な細胞周期進行の上になりたっており、未分化能の維持も細胞周期制御と関連していると考えられているが、その分子基盤に関する研究は少ない。 我々は、未分化マウスES細胞と胚性繊維芽細胞とにおいて、種々の複製因子および細胞周期制御因子の発現レベルを比較した結果、ES細胞ではCdc6(M期終期に複製準備複合体の形成に必須)、ASK(Cdc7キナーゼの活性化サブユニット;S期の開始と進行に必須)、CyclinA(S期からG2/Mへの移行に必須)およびCyclinB(M期の開始に必須)の4つのタンパク質が大量発現していることを見出した。また、これらの因子の発現量は、ES細胞の分化誘導に伴い急速に低下した。以上の結果から、これらの複製制御因子の協調的な大量発現により未分化ES細胞に特有の細胞周期制御が支持される可能性が示唆された。体細胞の細胞周期においてCdc6はG1期初期にユビキチンリガーゼAPC/Cdh1を介したタンパク質分解を受けるが、ES細胞では細胞周期を通じて安定に保たれる。我々は、ES細胞ではAPC/Cdh1の活性阻害因子であるEmi1が大量発現しており、その発現レベルは分化誘導により急激に低下することを見い出した。Emi1の転写制御領域にはE2F転写因子結合部位が複数個存在し、そのプロモーター活性はE2F1-3により顕著に活1生化される。プロモーターの変異解析から一方、未分化細胞ではE2Fが促進的な複合体を形成するが、分化誘導により抑制型の複合体に変換されることが明らかとなった。Emi1をsiRNAでノックダウンすると、CyclinA, BおよびGemininなどの発現量が低下するがCdc6は変化しない。このことからCdc6とこれらの因子はタンパクレベルで異なる制御をうけている可能性が示唆された。Emi1の大量発現がES細胞の分化誘導にどのような影響を与えるかにっいて現在検討している。また、これらの因子の細胞周期変動について、蛍光タンパクとの融合分子を用いて解析している。
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