研究概要 |
[研究成果]組織修復に深く関わるビトロネクチン(VN)の糖鎖の肝再生(PH)、シャム術(SH)に伴う変化を解析した。 1)VN糖鎖変化 NO-,SH,PH-VNの糖鎖構造を質量分析法により解析した結果、複合型と混成型のN-型糖鎖の部位特異的付加、ならびに高度にシアリル化されたO-型糖鎖の存在が検出された。抗体反応およびC7/C9分析により、この糖鎖にはオリゴシアル酸構造が含まれることが判明した。 2)マトリックスリガンド結合活性ならびに組織溶解活性変化 SH-及びPH-VNのPAI-1の結合活性は、NO-VNと比較してそれぞれ約2/3、1/3に減少した。またuPAに対する結合活性はNO-VNと比較してSH-,PH-VNで約2倍に増強した。そこで各VN及びPAI-1共存下におけるuPA有効活性を測定したところ、SH-,PH-VNでPAI-1結合活性の減少と相関してuPA有効活性の増加が見られ、肝再生初期における組織溶解の促進が示唆された。 3)細胞接着伸展活性 肝障害時には星細胞が活性化され、肝再生または肝線維化を誘導する。そこでラット肝星細胞(RSC)に対するVNの細胞伸展活性を測定したところ、NO-,SH-VNと比較してPH-VNで約1/2に減少し、脱シアリル化VNでも未処理VNの約1/2に減少した。PH-VNのRSC伸展活性の減少は、シアル酸含量の減少に起因すると考えられ、肝再生初期のRSCの生存シグナルを抑制する効果が推測される。 [考察]VNの糖鎖変化によって、組織溶解、星細胞のECMへの接着、ならびにコラーゲンマトリックスの構築など組織修復の多段階を制御しうる可能性が示唆された。特にVNの糖鎖変化がRSCの生存や増殖を制御する機構の解明は、糖鎖を利用して組織の修復・再生を促進する方法の確立や、肝硬変などECM分子の関わる疾患の解明と制御にも貢献しうると考えられる。
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