ベイシジン(Basigin : Bsg)とは免疫グロブリンスーパーファミリーに属する膜一回貫通型糖蛋白であり、血球、上皮、内皮細胞などに幅広く発現している。長大なN型糖鎖を有し、N型糖鎖のポリラクトサミンとして代表的なものである。Bsgはmatrix metalloproteinase産生を促す事からEMMPRIN(extracellular matrix metalloproteinase inducer)とも称され、癌の転移に関する分野において最もよく研究が進められている。Bsgの糖鎖は、matrix metalloproteinase誘導に必須である。その他にも、Bsgについては、乳酸トランスポーターのシャペロンとしての機能や、白血球遊走因子である細胞外cyclophilinの受容体としての機能が提唱されている。我々はBsg欠損マウスを作成しその表現型を報告してきたが、今回、急性炎症へのBsgの関与について新しい知見を得た。腎臓の虚血再灌流モデルで、光顕上組織障害の程度、血清BUN値に有意差があり、欠損マウスで虚血障害が軽度に推移した。中でも、好中球の浸潤が有意に減少した。Cyclophilinの発現量に差はなかった。野生型マウスの腎臓および好中球のBsgをNグリカナーゼ処理すると約55kDaから約32kDaへ分子量が減少することから、両者のBsgはともに20kDa超のN型糖鎖によって修飾されていると考えられた。そこで好中球浸潤の差の理由を明らかにするなめに、腹腔から得た好中球を用いて、マウス血管内皮細胞F2および初代培養尿細管上皮との接着を評価したところ、欠損マウスの好中球の接着が有意に減少した。逆に尿細管上皮の遺伝子型を変えても接着には差がなかった。以上より、好中球上のBsgが細胞接着の鍵を握っており、これが腎虚血再灌流による炎症の進展を左右すると考えられた。
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