リンゴ銀葉病菌(Stereum purpureum)の生産するペクチン質分解酵素、エンドポリガラクツロナーゼIa(endoPG Ia:Asn92とAsn161にハイマンノース型糖鎖を有する)とその遺伝子をE.coliにて発現させた糖鎖なしの酵素(endoPG Ir)を対象として、それぞれの立体構造を比較することにより、糖鎖修飾による構造安定化について検討を行なった。我々は、すでにendoPG Iaについて、大型放射光施設SPring-8においてX線結晶構造解析を行い1.0Åを超える原子分解能でその構造決定に成功している。そこで、さらにE.coli発現endoPG Irについても、S.purpureum発現酵素と同条件での結晶化に成功し、1.0Å以上の分解能を持つことを確認した。今回、endoPG Irについて酵素単独の構造と反応生成物ガラクツロン酸(GalpA)との複合体それぞれの立体構造を決定した。その結果、GalpA複合体の場合、endoPG IaとendPG Irの構造はほとんど同一であった。ところが、GalpAを含まない単独での場合、endoPG Irは、Asn91付近のループ構造が前記2つの構造とは異なっていることが判明した。Asn91は、結合したGalpAと相互作用する残基であることから、endoPG Irでは、Asn92への糖鎖修飾を失うことによりループ構造が柔軟性を増し、結晶中でも多様な構造をとるようになってしまったことを示していると思われた。一方、endoPG Iaでは、Asn92に糖鎖修飾を受けていることにより、ループの動きが押さえられており、GalpAとの複合体を形成していない場合でも、結晶中でのループ構造に多様性が生じていないと考えられた。
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