本研究は、リンゴ銀葉病菌(Stereum purpureum)の生生するペクチン質分解素、エンドポリガラクツロナーゼI(endoPG I)を対象として、その糖鎖修飾による構造安定化機構について構造生物学的に解明することを目的とした。 大腸菌を用いて得られた組換えendoPG Irは温度安定が20℃低下した。両者のアミノ酸配列は同一であることから、この熱安定性の低下は、糖鎖修飾が行われなかったためと考えられた。そこで、endoPG Irについて酵素単独の構造と反応生成物ガラクツロン酸(GalpA)との複合体それぞれの立体構造を決定し、それぞれの構造の違いを調べた。その結果、糖鎖付のendoPG IにおいてAla89-Ile94のループの動きをAsn92への糖鎖修飾が抑制することを結晶構造中で確認した。しかし、さらに解析を進めた結果、Asn92への糖鎖付加によるループ構造の安定化は、結晶化に伴うタンパク質分子同士の接触によるものであり、溶液中では影響がないであろうと考えられた。 一方、糖鎖付のendoPG Iと糖鎖なしのendoPG Irを示差熱量計(DSC)解析で比較したところ、endoPG IrはendoPG Iに対し変性温度がほぼ同じ分子と約13度低下した分子の混合物であることが示唆された。そこで、両者の結晶構造を詳細に比較した結果、endoPG Irの一部の分子はCys300-Cys303間のジスルフィド結合が形成されておらず、これが熱安定性低下の主要因と考えられた。そこで、DSCで判明した低温側の変性温度70℃で処理し、変性物を除いたendoPG IrについてX線結晶構造解析を行なったところ、問題のジスルフィド結合が完全に形成されていることが確認された。
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