Notchシグナルは発生、細胞分化のさまざまな局面で重要な役割を担っており、その機能不全はまたT細胞性白血病やCADASILをはじめとする種々の疾患の原因であることが知られている。Notchの細胞外ドメインはO-フコース型糖鎖による修飾をうけており、この糖鎖修飾の第1段階を触媒するO-フコース転移酵素(O-Fut1)の欠損マウスはNotchと同様に胎生致死となる。研究代表者らはこの欠損マウスから樹立したES細胞を用いて、O-フコース型糖鎖の欠損によりリガンド結合能が失われること、また同欠損によりNotchの細胞表面発現はほとんど変化しないことを見いだしている。本年度はリガンド発現細胞との共培養によるNotchシグナリングアッセイを行い、O-フコース型糖鎖を欠損するES細胞ではリガンド依存的なNotch活性化がほぼ消失することを明らかにした。また、RNAiによりO-フコース転移酵素の発現をCHO細胞においてノックダウンしたところ、Notchリガンドの結合とリガンド依存的Notchの活性化の両者とも顕著な減弱が認められた。Notchのリガンド結合実験の特異性を確認する目的で、マウスNotch1の細胞外領域フラグメントをCHO細胞に発現させ、培地より回収精製することにより調製した。本フラグメントはマウスES細胞に対するNotchリガンドの結合を容量依存的に阻害した。また、特定のO-フコース修飾部位を改変した部分的糖鎖欠損型のNotch1細胞外領域フラグメントはマウスES細胞に対するNotchリガンドの結合をほとんど阻害しなかった。これらの結果から、Notch細胞外ドメインのO-フコース型糖鎖がリガンドの結合およびリガンド依存的Notchの活性化に必須であることが明確に示された。
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