先天性糖鎖合成障害のひとつCDG IIc(II型白血球接着不全症:LADIIともよばれる)は、白血球接着不全(白血球の接着欠損、再発性の感染症)に加えて、成長・精神遅延や、形態・骨格異常を伴う遺伝病である。CDG IIcは、GDP-フコースをゴルジ体内腔に輸送するGDP-フコース輸送体の遺伝子に起こった突然変異が原因である。糖核酸の一種であるGDP-フコースは、タンパク質や糖質へのフコースの付加に必要である。CDG IIcでの白血球接着不全は、白血球の表面にある糖鎖に、フコースが付加されないことが原因である。しかし、CDG IIcの重度の精神遅延や形態・骨格異常の原因は不明であった。 本研究では、ショウジョウバエをモデル系として用いることで、CDG IIcの病態の一部が、Notch情報伝達の低下によって説明できる可能性を示唆できた。GDP-フコース輸送体遺伝子に突然変異が起こったショウジョウバエでは、Notch受容体へのフコースの付加が不十分であった。Notchへのフコース付加は、その機能に必要なため、このショウジョウバエ突然変異体では、Notch受容体による細胞シグナル伝達が阻害された。さらに、哺乳類培養細胞においても、GDP-フコース輸送体は、Notch受容体による細胞シグナル伝達に必要であった。ヒトの神経や骨の細胞が形成されるときにも、Notch受容体が細胞シグナルを正しく伝達する必要がある。CDG IIc患者では、Notch受容体の機能が低下しており、これが、精神遅延や形態・骨格異常の原因であると考えられた。この成果は、治療法の開発の指針を示したものとして重要である。
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