研究概要 |
昨年度までの本研究班で明らかにした本症に於ける糖脂質組成の異常が,細胞内外での情報伝達に如何なる影響を与えるかをラフト構造に常に念頭におきながら実験を進めた。変異型PS1を発現するヒト神経芽細胞腫SH-SY5Yに発現する高親和性NGF受容体のTrkの細胞内伝達系への影響を調べると、1)モックでは、リガントであるNGFに反応してTrkのチロシン自己燐酸化反応がみられたものの、変異型ではNGFに反応せずまた無刺激でもTrk の自己燐酸化状態は明らかに亢進していた.2)変異型で反応が見られなかった理由の一つにはTrkが正常に細胞膜上にターゲッティングされず、細胞内に留まっていた.3)また、野生型を発現するstable transfectantでも、モックに比しTrkのNGFに対する反応性は低下していた.4)こうした変異型、野生型PS1を強発現する細胞では、モックに比し酸化ストレスに対する脆弱性をこの順に示した(Mol Brain Res 2005).さらに、ラットhippocampal neuronの初代培養形を用い同細胞系にapoptosisを惹起させることが知られた神経毒であるアミロイドペプチド(25-35) (Abeta)を同細胞培養系に添加し、脂質への影響を調べた.その結果、1)Abeta投与後一定時間まではphospholipids, gangliosidesの合成は有意に増加すること、2)その時間を過ぎると急激にこれら脂質のsteady-state levelは減少した.3)減少を始めると共にカスパーゼの活性化が観察され、また同時に細胞にユビキチン化蛋白の増加が観察された.しかし、4)細胞内コレステロール含量は全てのtime pointで変化せず、ある特定の脂質の合成・代謝に影響を与えることを見いだした(論文投稿中). さらに、本研究遂行中に中性糖脂質に対する自己抗体を有する患者を発見し、この自己抗体のもつ細胞生物学的な機能について解析を始めた.この自己抗体は神経細胞に於ける中性糖脂質の機能解明研究に非常に有益なツールを提供する可能性があり次年度ではさらに詳しく調べる予定である.
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