近年、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスI分子と構造的な類似性を有する分子群(MHCクラスI様分子)の構造と機能の解明が急ピッチで進められている。本研究では、われわれが報告したマウスのMHCクラスI様分子MILL(MHC class I-like located near the leukocyte receptor complex)の構造と機能を解明することを目的とした。MILLは、第7染色体上の白血球レセプター遺伝子複合体領域の近傍でコードされるクラスI様分子であり、MILL1、MILL2の二つのメンバーからなる。既知のクラスI様分子の中では、ヒトMHCでコードされるMICA・MICB分子と最も高い配列相似を示す。MILL分子群の生化学的特性を理解するために、マウスMILL分子を発現するstable cell linesを樹立し、さらに、MILL1、MILL2特異的なポリクローナル抗体を作製した。これらを用いて、生化学的な解析をおこなった結果、1)MILL分子はN結合型糖鎖を有するGPI-anchored proteinであること、2)MILL分子は細胞表面でβ2ミクログロブリンと会合していること、3)MILL1分子は胸腺髄質上皮細胞や毛包に発現されていることなどが明らかになった。また、TAP分子を欠落したRMA-S細胞においても、MILL分子は細胞表面に発現されることから、MILL分子はペプチド結合以外の機能をもっていることが強く示唆された。したがって、MILL分子はペプチドを結合しない点ではMICA・MICB分子と類似しているが、β2ミクログロブリンと会合する点、GPI-anchored proteinである点でMICA・MICB分子と異なっていることが明らかになった。以上から、MILL分子がMICA・MICB分子の機能的ホモログである可能性は低いと推測された。
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