Bach2は転写抑制因子である。Bach2ノックアウトマウスのB細胞は、抗原刺激に対するIgM応答は示すが、抗体重鎖遺伝子のクラススイッチ(CSR)と体細胞突然変異(SHM)に障害がある。また同マウスでは、一次リンパ慮胞は形成されるが、抗原を投与しても胚中心が形成されない。以上の結果は、Bach2が遺伝子改編を伴うB細胞の応答で重要な役割を担うことを示唆している。そこで本研究では、Bach2の生理的標的遺伝子の解明を足がかりとして、成熟B細胞から形質細胞への分化とCSR、SHM、胚中心形成といったB細胞活性化応答における遺伝子プログラムを明らかにすることを目的とした。平成17年度は以下の実験を行った。まず、DNAマイクロアレイを用いて野生型とBach2ノックアウトB細胞における遺伝子発現を直接比較し、発現に差異のある候補標的遺伝子群を同定した。この中で、プロモーター領域にBach2結合配列を有するBlimp-1遺伝子について詳細な解析をおこなった。Blimp-1は、成熟B細胞から形質細胞への分化に必須の転写抑制因子である。まず、B細胞でBlimp-1遺伝子のBach2結合配列にBach2が結合するか否かを検証するために、Bach2抗体を用いたクロマチン免疫沈降実験系を確立した。次に、Blimp-1遺伝子のプロモーター領域を持つレポーター遺伝子を作製し、Bach2の転写調節能を検討した。その結果、B細胞内でBach2が同配列に結合すること、同配列特異的に転写を抑制することを見いだした。すなわち、Bach2の標的遺伝子の一つはBlimp-1遺伝子であり、Bach2は同遺伝子の転写を抑制するものと考えられる。
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