本研究の目的は、HIV感染症をモデルとして、T細胞による免疫監視システムがヒト慢性ウイルス感染症の病態に与える影響を明らかにすることである。昨年度までに慢性期における抗HIV免疫監視システムの破綻過程を明らかにしたが、本年度は、その前過程であるHIV感染早期における抗HIV免疫監視システムの解析を行い、慢性感染症に対するヒト免疫監視システムの実体解明を図ることを目指した。その結果、下記の成果を得た。 (1)新たにHLA-B35陽性で、感染早期のHIV感染者(感染確認後2年以内)9人から、血漿とPBMCを採取して、HIV-1 Nefに対するCD8 T細胞の応答を解析した。 (2)感染者由来のHIV-1 Nef配列を決定したところ、慢性期の感染者由来のHIV-1 Nefとは有意に異なる配列を有していた。その領域が、HLA-B35拘束性エピトープ内にあったことから、感染早期と慢性期ではHLA-B35拘束性CTL応答が量的・質的に異なると察せられた。 (3)HIV感染早期に主要なCTL応答を示すCTLエピトープを同定し、その抗ウイルス機能を評価した。その結果、感染早期に惹起されるHIV特異的CTLは、慢性期に認められるCTLに比べて、有意に抗ウイルス機能が優れていることが分かった。 (4)ヒトCTLの免疫監視システムは、HIV感染が継続する中で、有効なエピトープを失い、抗ウイルス活性が低下すると考えられた。
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