T細胞の過剰な活性化は各種の自己免疫疾患やアレルギー性疾患といった弊害を引き起こすが、いったん活性化したT細胞がどのようなメカニズムで沈静化するかについては、未だ十分な解析がなされていない。本研究は、SPRY1によるT細胞不活性化機構の解明を通して、免疫系が備えている負のフィードバック機構の解明を目指すべく計画された。本年度においては、SPRY1がPLCγ1の活性化の抑制を介してT細胞活性化のシグナルを阻害している事を見出した。さらに、その阻害様式にSPRY1の細胞内局在が大きく関わっている事を、各種の変異体を用いた解析から明らかにした。予備的な解析からは、SPRY1の局在決定に低分子量Gタンパク質の一種であるRab5Bが関与することを示唆する結果を得ており、現在SPRY1の局在決定機構を解析中である。一方、SPRY1の生理的な役割を解明すべく、われわれは野生型のSPRY1ならびにSHR(SPRY-homology region)領域を欠失した優性不能型変異体SPRY1(SPRY1ΔC)のT細胞特異的トランスジェニックマウスの作製を行っている。野生型SPRY1ならびにSPRY1ΔCトランスジェニックマウスの何れについても、目的遺伝子が導入された複数のラインが得られたものの、そのうち末梢T細胞でのSPRY1(もしくはSPRY1ΔC)の発現レベルが高く維持されたラインは各々1ラインのみであった。予備的な解析からは、 SPRY1ΔCトランスジェニックマウス由来T細胞において、Th1/Th2バランスの異常を示唆するデータが得られている。現在、個体数を増やしての解析に取り組んでいる。また、次年度以降の解析を視野に、さらなるトランスジェニックマウスのラインを得るべく受精卵への目的遺伝子導入を試みている。
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