研究概要 |
Runx3蛋白が胸腺におけるCD8 T細胞分化の鍵となる分子であることをふまえて、Runx3がどのようにしてCD4/8遺伝子の発現制御に関与するかを解析した。その結果、CD8 T細胞への分化決定時にRunx3蛋白の発現が特異的に増大すること、この際近位プロモーターによって転写される転写産物ではなく、遠位プロモーターによる転写産物が増大することが明らかとなった。そこで遠位プロモーターによる転写の制御がどのように行われるかを調べたところ、Runx1により抑制され、Runx3自身により増強されることがわかった。従って分化シグナル受容直後にRunx1およびRunx3の発現バランスがどちらに傾くかで、その後のRunx3発現増強の有無が決定される物と推測された。今後は、最初期のバランスがいかに決定されるかの機構解明に向かう予定である。 一方、Runx3がCD4抑制,CD8活性化を行う際、クロマチン・リモデリング因子であるBAF複合体がRunx3と協調して機能することを示唆する知見が得られた。すなわち、BAF複合体構成因子の一つBAF57のドミナント・ネガティブ体を導入した胸腺未熟DP細胞では、CD4発現上昇とともに分化誘導時のCD8発現低下が促進した。この現象はRunx3ドミナントネガティブ体の導入でみられる現象と酷似しており、両者の機能的、分子的関連が強く示唆されることとなった。今後は両者の物理的会合の有無を明らかにしていく予定である。
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